肝疾患の三大症状と「かゆみ」の最新治療 健康・医療トピックス オムロン

2021-02-23 11:16:25

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、炎症や障害が起こっても自覚症状はほとんどないといわれてきました。しかし、実際には自覚症状があることが明らかになっています。近年、C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎の治療が飛躍的に進歩し、インターフェロン製剤による治療を併用しなくても、飲み薬だけでウイルスが排除できるようになってきました。C型肝炎が治る病気になったことによって、治療前と治療後の自覚症状を比較すると新たな事実が明らかになったのです。

肝疾患の専門家で、治療薬の研究開発に携わってきた虎の門病院の熊田博光分院長は、「C型肝炎はこれまで治らない難病でしたが、2014年にダクラタスビルとアスナプレビルという飲み薬が承認されて、治る人が増えてきました。すると、だるさが取れたという患者さんが多くなって、肝臓と自覚症状には関わりがあることがわかってきました」と話します。

肝疾患の患者が感じる三大症状は、「だるい」、「脚がつる」、「体がかゆい」というもので、「だるさ」が最も多い症状です。C型肝炎ウイルスに感染すると、全身の倦怠感(だるさ)や食欲不振といった風邪によく似た症状がみられますが、飲み薬でウイルスを排除することで、それらの症状を改善できます。また、「脚のつり」については、漢方薬の芍薬甘草湯などが効果的です。

残る問題は「体のかゆみ」。肝疾患によるかゆみは症状が強く現れることがあり、睡眠を妨げるなど、生活の質(QOL)を下げる原因のひとつといわれています。「もっと効果のある薬があったら」という患者の声がきっかけとなって、治りにくいかゆみについても研究が進められ、治療が可能になっています。

一般的なかゆみは、皮膚にある肥満細胞から分泌される、かゆみ物質のヒスタミンによって引き起こされると考えられています。このようなかゆみには、抗ヒスタミン薬の塗り薬などを用いて治療します。しかし、慢性肝疾患に対しては、効果がない場合が少なくありません。「肝臓の病気から生じるかゆみは中枢性のかゆみ、つまり脳が感じています。それにはオピオイドという物質が関わっています。その中のμ(ミュー)とκ(カッパ)オピオイドのバランスが崩れることがかゆみの原因です。現在、飲み薬が開発されています」(熊田分院長)。

慢性肝疾患のかゆみに用いられるのは、「ナルフラフィン塩酸塩」という飲み薬です。肝疾患のかゆみの原因は、体内にあるオピオイド(モルヒネと類似した物質)によるかゆみ誘発系とかゆみ抑制系のバランスの乱れ。ナルフラフィン塩酸塩は2015年5月に使用が承認された薬剤で、皮膚や脳の中で活性化した2種類のオピオイド物質のバランスを元に戻して、かゆみを抑える働きがあります。

治験(臨床試験)を行ったときの経緯を熊田分院長は、こう話します。「ナルフラフィン塩酸塩は、その前から人工透析の患者のかゆみ止めに使われていて、肝臓の病気の人にも効くのではないかと。そこで治験をしたところ、改善することがわかったのです。ウイルスが消えてもかゆみの症状が治らず、かゆくて眠れないという人がいます。薬はこのような人に朗報です」。

日本には、C型肝炎の感染者が100万~150万人いると推定されています。肝臓の病気はウイルスなどの原因によって肝臓の細胞に炎症が起こり、慢性肝炎を発症し、20~30年という時間をかけて肝硬変、肝がんへと進行していきます。「だるい」「脚がつる」「体がかゆい」という自覚症状は、日常生活において「よくあること」と見過ごされがちですが、ひょっとしたら肝臓の病気が隠れているかもしれません。肝臓には痛みを感じる知覚神経がないことが「沈黙の臓器」と呼ばれるゆえんです。気づかないうちに進行することも多いため、三大症状をよく覚えておきましょう。

C型慢性肝炎は高齢者に多い病気ですが、最近は若い世代に感染者が多くなっています。C型肝炎ウイルスによる肝炎は、注射器や針などから感染することがあるため、医療機関以外でピアスの穴をあけたことがある人や、皮膚にタトゥー(入れ墨)を入れたことがある人、輸血や手術を受けたことがある人などは、注意が必要です。肝炎ウイルス検査をしたことがない場合は、一度受けることをおすすめします。

また、健康診断で肝臓に問題がないという結果が出たとしても、気をつけてほしいと熊田分院長は指摘します。「肝臓の検査値が基準値の範囲内であることが、正常とは限りません。肝臓の専門医が診ると異常というケースは、よくあります。日本人は医療にあまりお金をかけたがりませんが、肝臓を守って長く健康に生きたいなら、人間ドックを受けるのが最もよいと思います。肝臓は肝臓の専門医がしっかり診ます」。

難病といわれたC型慢性肝炎が治る時代になり、C型肝炎患者は減少傾向にあります。代わって最近増えているのが、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)です。その名のとおり、お酒をあまり飲まないのに肝臓に脂肪がたまっている状態で、脂肪肝炎から肝硬変や肝臓ガンに進行するリスクが高いといわれています。NASHの発症は女性が多く、更年期以降で増加します。肝臓に負担をかけない食生活を心がけ、定期的な検査で肝臓の健康状態を把握しておくことが大切です。

監修 虎の門病院 分院長 熊田 博光先生

更新日:2020.12.11

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